2018年02月15日

宮崎のチキン南蛮

従兄弟の祐樹と2、3年ぶりに会った。彼は私の二つ上の37才。子供の頃はずいぶん大人っぽく感じたが、お互いおっさんになってしまえば年の差は感じなくなった。

最後に会ったのは叔父の葬儀だった。亡くなる数ヶ月前から緩和ケアに入っていて、見舞いにホスピスにいくたびに祐樹と顔を合わせていた。ホスピスという空間は想像以上に穏やかで、笑顔があって、人間の暖かみ溢れる場所だった。反面、そこにいる人間すべてが身近に「死」という極限と向き合っている事実が合わさると、なんともいえない異様さを感じ、(言葉は悪いが)ある種ファンタジーの世界に迷い込んでしまった気すらするのだった。そんななか現世で歳の近い祐樹がそばにいてくれたことが心強かった。きっと彼もそうだったと思う。

「あの時は大変だったな。ほぼ毎週末通ったっけ」

「でも叔父さん、モルヒネの助けもあったんだろうけど、普通に沢山話せてよかったよな」

「あぁそうだね」

「チキン南蛮覚えてる?」

「あぁ大変だったなぁ」

「食べたいものならなんでも仕入れるぜ、なんてお前が調子いいこと言うから」

「宮崎の『おぐら』な。まさか二人で九州いくことになるとはね」

「いい店だったね」

「そうそう、丁寧にレシピと作り方まで教えてくれたよね」

「叔父さん美味しかったのかな?俺たちがでっちあげたチキン南蛮」

「知らん」

祐樹は笑いながら言った。
posted by ヒケ at 13:32| 東京 ☀| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月26日

はじまり

初めてタバコを吸ったときを思い出す。

当時15才の高校生だったが、既に友人は吸い始めていた。私はそいつがひそかにカッコいいと思っていたが、自分から「俺も吸ってみたい」と言い出すことが真似っぽくダサく思えたので逆に「お前は馬鹿か」と揶揄するのが最善の選択肢だった。

ところが三人目の友人も吸っていることが判明して、特定の誰かの真似ではなく「俺も吸ってみたかったんだよね」と言いやすくなった。

私たちは不良でもなんでもなかった。多分、二人の友人も内心ドキドキしながらコソコソ吸っていたのではないかと想像する。私が仲間が加わることは、なんとなく歓迎されたような気がする。

はじめての銘柄はKOOLという重めのメンソールだった。先端に火を当てながら息を吸い込む。最初は口の中の煙をそのままふかしてしまった。その次は肺まで吸い込むことを学んだ。なんどか練習してるとフワフワしてきて乗り物酔いのようなめまいがした。

帰り道もずっと気持ち悪かった。親に匂いをかぎ取られるのではないかとドキドキしながらゆっくり歩いて帰った。
posted by ヒケ at 01:36| 東京 ☀| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月31日

思いもしなかったギフト

5、6年前に叔父が亡くなった。唯一連絡のつく親族だった自分が葬儀から遺品の整理までやることになり、とにかく大変だった記憶がある。叔父は私が子供の頃からよく遊んでくれたものの、どうやら他の親戚とは合わなかったようだ。噂では過去に金の揉め事があったらしい。

亡くなったときに一番困ったのは遺品の整理、それも本。とんでもない読書家だった叔父は部屋一つ埋まるほどの本や雑誌を残していった。燃えるゴミに出すのも忍びなく、いらないものはタダで恨みっこなしと街の古本屋に出張で家まで来てもらった。貴重な本が何冊かあったようで、思いのほか高い値段で引き取ってもらえた。おまけに、古本屋で使える商品券を5万円分も出してくれた。

本で困ってた矢先に、最初はそんな商品券みたくもなかったが、もったいないといえばもったいない。5万円を使って一年分の読書量を仕入れるつもりで本を買いあさった。一年かけてその本を読み終えると再び古本屋に買い取ってもらい、その翌年の軍資金が少しまた入ってくる。最初の5万円が翌年5,000円の買取りとなり、そのまた翌年は3,000円、というように金額が減っていった。

今年の買取額はとうとう1,000円を割り、買えるのはせいぜい小説2, 3本だろうか。慎重に選ばなければいけない気がする。

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今年はこれでおしまいです。
読んでくれた方、今年もありがとうございました。

穏やかな新年をお迎えください。

ヒナミケイスケ
posted by ヒケ at 20:20| 東京 ☁| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月21日

インスピレーション

寒波が都会を包み、ぐっと寒くなった。ただでさえ出かけるのを躊躇する寒さなのに、繁華街のビル風が追い打ちをかけてくる。新宿駅の東口を出て、立ち止まって空を仰ぐ男の姿がある。

山本祐一31才独身会社員、本日クリスマスショッピングのラストチャンスだ。プレゼントを贈りたい相手は田中聡美28才フリーランス通訳、付き合い始めてからわずか3週間でクリスマスイブのデートの約束をしてしまった。ひとりぼっちのクリスマスと比べて幸運なのだろうが、本人にとってこの瞬間は紛れもないピンチだ。制限時間、おおよそ2時間後。

いきなり指輪とか高価なものは論外だ、だが、特別感は出したい。純粋に喜んでもらいたいので彼女の趣味や特徴に上手く乗っかりたい、だが、情報不足、趣味は海外旅行と外食と言われている。自分のセンスもアピールしたい。乏しいながらも、センスが勝負処だ。

ベクトルやパラメータはきちんと整理して挑んだはずなのに、山本は帰りの電車で頭を抱えている。

いったいなぜ、招き猫なんか買ってしまったのだろう。
posted by ヒケ at 17:38| 東京 ☀| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月12日

持つべきもの

高橋空雅(くうが)34歳会社員と、デーブ・ロックウェル28歳英語教師。二人はインターネットで出会い、東京郊外の一部屋でルームメイトになった。

高橋は企業に勤めながらヒップホップドリームを果敢に追い続けている。一方のロックウェルは憧れの日本のアニメ文化(主に少女漫画)を身近に感じるために日本に来た。生い立ちも目指すものも全く異なるが、思いのほか仲良く暮らしているらしい。二人とも性格は温厚、協調的で常識人。お金や家事の役割分担もきちんとしており、生活上の行き違いがあっても話し合って解決するようにしている。二人とも空気を読む能力が高く、お互いの聖域に干渉しないようにしている。色んな意味で時代が可能にしたコラボレーションである。

アメリカ中部出身のロックウェルはヒップホップに関して明るくないし、高橋も漫画やアニメに興味がない。そのため、高橋のヒップホップも、ロックウェルのアニメの解釈もそれぞれ独創的。高橋にとってのロックウェル、ロックウェルにとっての高橋は、それぞれ愛する文化に近そうで遠い「おしい」立ち位置にあるのだった。
posted by ヒケ at 09:32| 東京 ☀| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする